彼女は、ヴァンサンカン。

2008年05月06日

『須貝チャン』vol.5

タクシーの中で、重倉が肩に手をまわしてきた。
そして、熱いキスを求めてきた。
タクシーの運転手の視線が気になる。
重倉は気にならないのだろうか。
肩の手が次第に下りていく。声を出すことはできない。
されるがまま、されていた。

 
住宅街へ入り、重倉が先にタクシーを降りた。
タクシーを降りると、何事もなかったかのように
平然と振り返りもせずに歩いていく。
奥さんが待っている家へと。

 
―これくらいの距離がちょうどいい

 
そう、「これくらいの距離がちょうどいい」
ほんの2、3時間前に思ったことだ。

 
何がちょうどいいというのだろうか?
結局は、自分が傷つかないように、
そう思い込もうとしているだけではないか。
バックミラー越しのタクシー運転手の冷たい視線を感じる。
初めてカラダを売ったとき、ルームサービス
持ってきたホテルマンの視線を思い出した。
結局、また同じだ。
粕谷も水谷も、重倉も。
恋も愛もない。
上辺だけの会話とそれを隠すための食事、そしてカラダ。
私は何も学んでいない。
私は一歩も進んでいない。

 
posted by 佐奈 at 18:37| Comment(0) | TrackBack(2) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月05日

『須貝チャン』vol.4

お店をあとにして坂をくだる。

重倉に手を引かれ、セルリアンタワーに入った。

 
ホテルか・・・
気が重くなる。
やはり重倉も同じか。

木目調の3u程の個室。
重倉が手を腰にまわしてきた。
無言の二人を乗せて
エレベーター40階で止まった。


「?」
 


「せっかくいい気分だからさ、もう一杯付き合ってよ」
状況がのみ込めないまま、
タキシード姿の男性に案内され
重倉の後ろを歩き、
カウンター席に座った。
宝石みたいな夜景が目前に広がっている。 

手を引かれ、連れてこられたのはバーだった。
ピアノの生演奏がきこえる。

しあわせだと思った。
私と重倉の間には、
恋も愛も存在しないけれど
それが本当にちょうどよかった。 
posted by 佐奈 at 18:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月22日

『須貝チャン』vol.3

今夜は、どこに連れて行ってくれるのだろうか。
重倉から4度目の食事の誘いが来た。
重倉と会うのは平日の夜というパターンが出来つつある。
しかも、大抵、待ち合わせる時間の2時間程前に誘ってくる。
「今夜早くあがれそうなんだけど、どう?」
という感じで。
週末の予定はすっかり水谷との約束で埋まってしまっているが、
彼氏もいないので、平日の夜はほとんど空いている。
だから急な誘いでも特に問題ないのだが、なんだか悔しい。

 
続きを読む
posted by 佐奈 at 13:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月24日

『須貝チャン』vol.2

 「そういえば、菅原チャンのこと覚えてる?」

菅原ハナならよく覚えている。
私の1年後輩だ。よく一緒に徹夜をしたものだ。

「ハナちゃんですよね?覚えてますよー。元気にやってますか?」

「彼女ね、こないだ賞をとってね。
たぶんそれがきっかけなんだろうけど、転職したよ。」

「えーっ、知らなかった。連絡くれればいいのにぃ。
で、どこに転職したのですか?」

重倉から返ってきた、そのハナの新しい活躍場所は
日本全国だれでもが知っている有名出版社だった。

「すごいですねぇ。そっか、そうなんだ…。」
 続きを読む
posted by 佐奈 at 14:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。